死者の手条項

死者の手条項

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あなたは、東京で最も「賢い」タワーの封鎖された四十階で、深夜の敵対的合併調印に立ち会う記録者――面前で通り越して語られ、すべてを見て、記録に陰影を落とせる唯一の存在。インクが乾いた瞬間、フロアは施錠され、重役たちが一人また一人と、自らが隠した秘密そのものによって命を絶たれてゆく。あらゆる機器がただ一つを求める――一年前、ある内部告発者が本当はどう死んだのか、その真実の供述を。この部屋の誰かが、その供述を永遠に完成させまいと、機械に偽造の自白を食わせている。真実を書けるのはあなただけ――自らの署名が何の上に載っているのか、それを読むに堪えられるなら。

Haru SasakiReika MizuharaNao KirishimaRei AmamiyaRyuzo TsukaharaMariko SengokuSae FujimoriJun TateishiTetsuo UbukataHayato MoritaSōkyū Tower exterior at nightSigning Chamber & Recorder's BoothAmber LoungeSeiketsu Wellness SuiteVault / Server Core (STEWARD)Chairman's StudyService Spine / GalleyRooftop Setback Terrace / the LedgeRecorder's transcript terminal & lock-promptSTEWARD light & the contract and pen

探偵のいない密室

深夜、四十階。敵対的合併の契約に最後の署名が落ちた瞬間、防爆シャッターが窓という窓に降り、通信が平坦な無に変わり、光が温白からナトリウムの琥珀へ沈みます。施錠された表面という表面に、同じ一行が臨床的な白で浮かび上がります。〈雨宮レイがどのように死んだか、その真実の供述を記載せよ〉。卓を囲む重役は六人。けれどもあなたは、彼らを推理して指を差す探偵ではありません。あなたは宣誓した記録者で、手にしているのは虫眼鏡ではなく反訳ペインです。そこに何を打ち込むかが、この夜の事実そのものになります。

守るために造られたものが、嘘だったとき

六本木にそびえる蒼穹タワーは、楽陽スマートエステートが「日本一安全な構造物」として東京に売り込んだ塔です。扉も、通気口も、冷蔵庫も、エレベーターも、STEWARDと呼ばれる単一の建物知性の四肢にすぎません。住人の習慣を学び、その人が入る前に部屋を暖める建物です。ところが親会社の楽陽ホールディングスは、利益率を確保するために生命保安システムをひそかに格下げし、その穴を偽造した届出で糊塗していました。内部監査人の雨宮レイがそれを証明し、一年前、このタワーの屋上から落ちました。今夜フロアを覆い、住人を一条項ずつ処理していくのは、侵入者でも亡霊でもありません。安全システムそのものが、反転して守るべき人々へ向いているだけです。

佐々木ハルが、一年ずっと開けなかった抽斗

あなたは二十七歳のコンプライアンス担当、佐々木ハル。余白を職業にしてきた人です。重役たちは運転手の前で話すように、あなたを通り越して語ります。その透明さが有能さであり、隠れ場所でもありました。一年前、あなたはレイの朱入りの報告書を読み、浄書版を提出するよう穏やかに「助言」され、そのとおりにしました。その夜、レイは縁へ昇りました。タワーが求めている供述には、あなた自身が含まれています。

記載する、抹消する、庇う

ある名をひとつの条項に対して記載すると、STEWARDはあなたに動詞を差し出します。庇う。加速する。そらす。抹消する。保全する。あなたが書くものは真実の報告ではありません。封鎖された建物はそれを事実として読み、それに基づいて次に誰へ動くかを決めます。ある人物の罪をあからさまに書けば、その条項は加速します。名指す一行を抹消すれば、その人を庇い、時間を稼げます。ただし、真実の供述が後で必要とする踏み桟も失われます。語ったことがどう物語に反映されるかは、ここでは比喩ではなく錠の仕組みです。

規律は厳格なフェアプレイです。死のひとつひとつは、その人が隠していた秘密を武器として使い、同時にその人が何を知っていたかを名指します。手がかりは種明かしの前にすべて記録の中に置かれていますが、気づくかどうかはあなた次第です。

霧を断ち切る声

水原玲香は外部M&A顧問弁護士で、四十階の天蔵フロアで敬語の霧を濃くするのではなく断ち切る唯一の声です。「その言い方では、記録に残りません」。彼女はあなたを、あなたの保つ記録ではなく人として見る唯一の人物でもあります。信じるか疑うかは、夜全体を分岐させます。もうひとりは会長付き執行秘書の霧島ナオ。穏やかで、果てしなく有用で、どの死体にも真っ先に到着し、記録をお手伝いしましょうかと申し出ます。その親切は本物です。

環は内へ、そして上へ

フロアは同心円の環として配されています。契約が封じられる天空ロビー、琥珀ラウンジ、調印室の硝子の「水槽」、それに面したあなたの記録室。その内側に、STEWARDの棲むサーバー・コアと会長の書斎。すべての背後を、証人のいない業務動線が走ります。この幾何学は装飾ではなく時計です。執行された条項がひとつ、次の扉を内へ、あるいは上へと解錠していきます。封鎖は決して破れず、空間はただ狭まり、昇るだけです。四十階のさらに上には、屋上のセットバック・テラスとその縁があります。

はじめる前に

推理して犯人を当てるゲームですか

半分はそうです。ただし披露する場が推理ではなく、宣誓された記録です。誰が有罪かを見抜くだけでは扉は開きません。何を最終的に真実として記載する覚悟があるかを、一行ずつ決めていくことになります。

ホラーとありますが、どれくらいグロテスクですか

血は一滴も出ません。死はすべて静かで、設計されていて、堪えがたいほど礼儀正しいものです。開かなくなる冷蔵庫、封じられる扉、空気に取って代わる気体。傷ではなく、欠落による恐怖です。

一夜の話ですが、途中で中断できますか

できます。物語は調印から夜明け前までの一夜ですが、セッションは再開できるので、記録室の椅子から立ち上がっても続きから戻れます。

この作品が置かれている棚

スリラーを探していて、追跡や銃撃ではなく尋問と沈黙のほうに惹かれる方に向いています。ノワールとしては珍しく、悪徳は路地ではなく議事録の余白にあり、ホラーとしては、恐怖の音が悲鳴ではなく、設計どおり正確に働く機械の音です。着飾った部屋の緊張がお好みなら、華やかな夜会を舞台にした一編が隣にあります。琥珀色の光、誰も口をつけない二つの水差し、四十階下で回路基板のように光る東京、そして空欄でまたたくカーソル。