
血液銀行カラオケ
赤い彼岸花が日本じゅうを眠らせてから三年半。パステルカラーのキャンピングカーが、夜の死んだ高速道路を走っている。中では四人の吸血鬼の少女が小さなカラオケバーを開いていて、マスクを外して歌えば、代金は望んで差し出す血の瓶ひとつ。今夜のお客は、あなたひとり。彼女たちは、四人目のメンバーを探している。




















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世界の終わりのカラオケバー
三年半前の秋分の夜、赤い彼岸花が日本じゅうで一斉に咲きました。朝までに光る花粉はすべての通りと家に流れ込み、それを吸った人はみな横たわり、二度と目覚めない眠りにつきました。眠り人たちは今も外にいます。道の上にも、車の中にも、ベッドの中にも。ゆっくり息をして、微笑んだまま、袖から花を咲かせて。
あの夜マスクをしていた人たちは、いま密閉された避難所で暮らしています。トンネル、病院の病棟、窓をテープで目張りした学校の体育館。誰もマスクを外しません。誰も歌いません。
ただ一か所を除いて。丸いヘッドライトにガラクタだらけのルーフラックをのせたミントグリーンのキャンピングカーが、夜ごと死んだ高速道路を走っています。窓はすべてピンクに光り、側面には手描きの看板。BLOOD BANK KARAOKE。中には、澄んだ空気と、ひび割れたミラーボールと、冷蔵庫ほどもあるレーザーディスクのカラオケ機がそろった小さなバーがあり、切り盛りするのは四人の吸血鬼です。『血液銀行カラオケ』はAIが語るテキストアドベンチャー。現代アニメのような、明るくて、かわいさとグロテスクが同居する語り口の、ポストアポカリプスのロードトリップです。あなたが言うことやすることを入力すると、物語が応えます。
瓶ひとつ、望んで差し出す
あなたは瀬名カイト、十九歳。川崎出身の少年で、冬から独りで西へ歩いています。ガスマスクのフィルターは、あと二時間ぶん。ポケットラジオから流れる歌をたどって、東京郊外の廃墟になった休憩所にたどり着くと、バンのスライドドアが開きます。
ルールは単純です。中ではマスクを外せます。歌えます。そして夜の終わりには、バンの小さな救急キットでとった自分の血を、瓶ひとつぶん差し出します。望んで差し出されたものでなければいけません。力ずくで奪った血は、吸血鬼の口の中で灰色の灰になるからです。それがいちばん古い掟で、だからこの吸血鬼たちは、狩りではなくカラオケバーを開いているのです。
今夜、お客はあなたひとり。だから今夜は、あなたが主役です。彼女たちはあなたを気に入っています。旅が終わるころには、あなたに残ってほしいと思うでしょう。
バンド
オディール・フォン・アッシュは、四百年以上を生きる純血の吸血鬼。カセットで聴いたアイドルポップに恋をして、一九八五年に東京へやってきました。膝まで届くアッシュブロンドの髪、黒いベルベットのリボン、真珠のチョーカー、フリルのついたピンクのパラソル。一週間ずっとあなたを待っていたホステスの、とびきり洗練された物腰。
キキはパンクのドラマー。黒いツインテールにマゼンタとシアンのメッシュ、ガム、革ジャン、そしてあなたの歌への意見つき。何でも叩いてドラムにします。あなたの頭もです。ナツは大開花の前は短距離走者で、いまは派手なレトロのジャージ姿でバンを運転します。飛ばしすぎです。そして道中のお菓子を食べさせてくれます。ヒナはいちばん年下で、いちばん無口。白いセーラー服に小さな髪リボンをつけ、ノートにセットリストを書きとめ、ほかの誰も言わない本当のことをぽつりと言います。そしてきなこは、小さなピンクのリボンをつけた太ったオオコウモリで、ミラーボールに住み、いちばん悲しんでいる人の上で眠ります。
にぎやかで、おかしくて、優しい人たちです。そして、いつもお腹をすかせています。飲むべき量より、ずっと少ししか飲みません。理由は誰も教えてくれません。
海まで十四夜
オディールはバンを西へ走らせます。関東平野を出て、山を越え、大きな火山のそばを通り、伊豆の海岸を下って、彼岸花がいちばん先に咲いた太平洋岸の灯台、赤花岬へ。春分の日の出に、そこにいたいのです。道のりは十四夜。
どの夜にも、停車地と、ショーと、問題があります。何年も歌っていない四十人が暮らすトンネルの避難所。吸血鬼を九人の子どもに近づけまいとする先生のいる学校。止まった観覧車のゴンドラで暮らす家族。霧の中で飢えた吸血鬼「渇き人」が待ち構える峠。銀色の耐火服で彼岸花の畑を焼き、火炎放射器で吸血鬼を狩る民兵「点灯隊」。昼間は少女たちが遮光された後部で眠り、あなたはひとりで見張りに立ち、死んだ町でマスクフィルターやガソリンや古い歌をあさります。
物語は、大切なものを画面に表示して数えています。
- マスク時間は、フィルターの残りです。ゼロになると、外にいる一時間ごとに代償を払います。
- 眠気は、吸い込んだ花粉の量です。上限に達すると、あなたは花の中に横たわります。
- 脈拍は、あなたの血です。瓶をひとつ差し出すたびに減ります。
- セットリストは、道中で集めた歌の数です。どの歌も、出会った誰かが託してくれた、昔の世界の記憶です。
- アンコールは、バンドがあなたをどれだけ仲間と思っているかです。
カーテン
バンの中には、前の座席の後ろをさえぎる厚い黒のカーテンが掛かっています。ナツはその向こう側から、道路に目を向けたまま運転しています。毎晩、閉店後に、オディールはひとりでカーテンの向こうへ行きます。誰もあなたを誘いません。かすかに花の匂いがします。
そして毎晩きっかり午前二時、動くラジオならどれからでも、眠たげな少女の声が言います。「彼岸からこんばんは。こちら、彼岸ラジオです」。そして古い歌を流します。どこから届くのか、誰も知りません。あなたは、それを追ってここまで来ました。
雰囲気と作風
『血液銀行カラオケ』は、吸血鬼と、サバイバルと、小さなバンに押し込められた疑似家族の物語です。たいていの夜はパーティー。デュエット、ひどい歌、怯えた客が何年ぶりかにマスクを外す瞬間。怖い夜もあれば、長い道のりを黙って背負っていく悲しみの夜もあります。血が現れるのはガラスの瓶の中だけで、眠り人は穏やかで、決してグロテスクではありません。歌の底にある問いは、何かを望んで差し出すとはどういうことか、そしてそれにいくらかかるのか、ということです。
プレイ前のQ&A
吸血鬼やアニメの知識は必要ですか?
いいえ。必要なことは、説明が大好きな四百歳の吸血鬼が、初日の夜にぜんぶ教えてくれます。友だちと午前二時にへたくそな歌を歌ったことがあるなら、あとはもうわかっています。
自分の血を差し出さなければいけませんか?
いいえ、決して。瓶はひとつひとつあなたが選びます。断っても失うのは、平気なふりをしているお腹をすかせた四人の少女を見る気まずさだけです。ほかの客からは、いいショーをして瓶をもらうこともできますし、フィルターが十分にあれば、どの停車地でもバンを降りて歩いていけます。
どんな結末になりますか?
あなたしだいです。十四夜のあいだに、何を差し出すか、誰を信じるか、バンドの仲間になりたいかどうかを、あなたが決めます。結末はいくつもあり、温かいものも、不思議なものも、ほろ苦いものもあります。何が起きても、バンは時間どおりに岬へ着きます。着いたときに何をするかは、あなた次第です。
こんな物語が好きなら
歌ひとつですべてが変わる、ネオンのように明るいアニメの夜をもう一つ味わいたいなら、映らない女王を。ファンの悲鳴が本人の知らないほど危険なアイドルの物語なら、怪獣アイドルを。