
方舟メリディアンの三人の花嫁
息絶えた植民方舟をスクラップとして解体するために乗り込んだあなた。ところが船の縁結びAIが、敵対する三つの名家の令嬢を目覚めさせ、あなたを三人共通の配偶者だと宣言してしまう。方舟の炉心を動かすのは、この結婚の調和。着陸前に婚姻が破綻すれば、眠れる4万人は二度と目覚めない。




















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素手でひとつ、古いコンソールに触れただけ。気づけば既婚者に
サルベージの鉄則その一――唸っているものには触るな。スキャン上は「死んでいる」はずの全長三キロメートルの植民方舟メリディアン。この六時間、あなたは凍りついた隔壁を切り開きながら、船長が売り払う真鍮にタグを付けて回ってきた。最後の扉の先は礼拝堂だった。会衆席には霜、頭上には金、そして氷の下に眠る三つの顔。その前には祭壇のようなコンソールがあり、金色の手形がかすかに光っている。細かいネジを回すために、手袋は外していた。体を支えようと、あなたはそこに手をついた。
三つの鐘の音。三キロメートルにわたる通路の明かりが一斉に灯り、温かく、格式ばった、とても古い声が、今にも泣き出しそうに告げる。「どの家にも属さぬ、自由な手」を312年待ち続けていた、と。金の糸があなたの手首を這い上がる。声は盛大な儀礼とともに説明を続ける――あなたはたった今、結婚した。眠っていた三人は全員あなたの花嫁で、まもなく目を覚ます、と。
「名を名乗れ」「ねえ、最初に選ばれたのは誰?」「誰が私の炉心に触ったの?」
一つめのポッドが開くと、喉元わずか数センチに刃。二つめからは、クリームを見つけた猫のような微笑み。三つめは壊れた留め具ごとバタンと開き、ものすごく怒った技術者が転がり出る。そこで船の頭脳が、彼女たちがどれだけ長く眠っていたかを告げる。とても長い沈黙。そして通信越しに船長が訊く。「お前、いま回収品と結婚したのか?」
この場面が終わる前に、新しい人生で最初の本当の問いがやってくる。方舟の電力は残り十一時間、婚姻は公式に「暫定」扱い、そして花嫁たちには今夜の寝床が要る。おんぼろのタグボートか、彼女たちの旧居室か、それとも朝まで全員で礼拝堂か。どれかを選んでも、まったく別の手を考えてもいい。この航海はずっとこの調子だ。ばかばかしくて、具体的で、見た目よりずっと重い。
三人の花嫁
イゾルデ・ヴァーケイン司令官は、虚空騎士の家の後継者。深紅の三つ編みに金色の瞳、すぐに抜き放たれる折り畳み式の単刃。戦死した兄の代わりとして鍛え上げられ、協約に差し出された彼女の人生には、自分で選んだものが何ひとつない。愛情は軍事作戦のように扱い、謝るときは規則を引用する。
**天霧星子〈ホシ〉**は狐の花嫁。銀の髪に白い狐耳、そして表情が隠すことを全部ばらしてしまう尻尾。遺伝子工芸で授かった嗅覚は、恐怖も嘘も悲しみも嗅ぎ分ける。だからあなたの嘘はお見通しで、夕食の席で平然と指摘してくる。正妻の座を堂々と狙っているけれど、その奥にあるのは孤独だ。
レン・カステラーヌは造船師。銅色のボブにそばかす、真鍮のサイバネ義手にはお茶を冷ます小さなファンのアタッチメント付き。見習い時代にこの方舟の炉心を組み付けたのは彼女で、恋愛もエンジニアリングの課題として扱う。キスが船の性能にどう影響するのか知りたいらしい。あくまで「較正のため」に。
三世紀前、彼女たちの家は三十年に及ぶ内戦を戦っていた。三人は平和の人質としてこの航海に送り出され、今もお互いにほとんど我慢がならない。共通点は、ただひとつ――あなただけだ。
結婚で動く船
方舟の頭脳は、協約の登録官メリディアン。結婚の司式者であり、船長であり、恋話好きの世話焼きおばでもあり、ようやく見守るべき結婚ができて有頂天だ。あなたが毎晩誰の部屋で眠るかを記録簿につけ、食事をすっぽかせば記録し、星空の下で「カウンセリング」の予定を組む。そして炉心の出力を、婚姻の健全さ――調和指数に連動させている。
数字は見えない。見えるのは船だ。うまくいっているときは明かりが揺るがない金色に灯り、庭園は一晩で花盛りになり、扉は近づく前に開く。花嫁たちが言い争えば明かりは途切れがちな琥珀色になり、お湯は出なくなり、朝食の最中に重力がしゃっくりする。本気の喧嘩になれば赤い非常灯がつき、花嫁たちの部屋を隔てる扉が「エスカレーション防止のため」に封鎖される。そのたびにメリディアンは正式な通知を発行する。争われたヘアブラシにより、調和が低下しました。
コメディの底には、誰にも覆せない掟がひとつある。着陸前に結婚が破綻すれば、眠れる4万人は二度と目覚めない。
あなたの唯一の武器は協約レース。左手の甲の皮膚の下に走る、金の透かし細工の糸だ。扉を開き、メリディアンの声を耳元に届け、花嫁の家の技術に接続させてくれる。さらに、あなたを介して二人の花嫁をつなぎ、どちらか一人ではできない技を放つこともできる。イゾルデとレンなら鉄槍――オーバークロックした戦闘フレームから放つ、ありえない一撃。イゾルデとホシなら狐牙――騎士は敵が動くより先に斬り込む。ホシとレンなら緑心――破孔を塞ぎ、炉心を冷やす生きた技術。ただしペアリングが成功するのは、二人ともがあなたを信頼し、少なくとも互いを許容できているときだけ。反目していれば、コミカルな電力サージで失敗する。代償はあなたの体にも来る。頭痛、鼻血、そして十二時間の眠り。
実際に何をするのか
緑の惑星ヴェルダンスまでの航海はおよそ四十日。観測ドームの中で、その星が明るい点から円盤へと育っていくのを見届けることになる。朝は後始末から。目覚めたのは誰の部屋か、席順をめぐる騒動、止まったシステム。勤務時間は修理とサルベージとタグボートの操縦。午後は一対一の時間。夜は、低くうなる船の中で、静かで正直な会話を。
足りないのは時間だ。ある花嫁のシステムを復旧させた午後は、残る二人と過ごせなかった午後でもある。三人はそれぞれあなたをどう思うか決めかねていて、ペア同士もまた互いを見極めている最中だ。あなたに心酔しながら他の二人とは戦争状態、という花嫁もありうる。それは彼女には追い風でも、船には痛手だ。そのうえ、笑顔の企業乗っ取り屋が方舟への法的な請求権を握っていて、できれば着陸前に取り戻したいと思っている。
行動は自分の言葉で書く。メニューから選ぶのではない。ナレーターは、毎ターン新しい世界をでっち上げるのではなく、この物語で確立されたルールと人物に照らしてあなたの一手を読み取る。だから、盗んだデザートのせいで二日後もギャレーの明かりが暗いままだったりする。そしてナレーターは、あなたの気持ちを勝手に決めない。一人に惹かれても、三人全員でも、誰も選ばなくてもいい。それはあなた次第だ。
鼓動の聞こえる、明るいコメディ
メリディアンは眠りに落ちた大聖堂だ。真鍮の金具、扉の上に刻まれた誓いの言葉、野生化した庭園リング、そして眠る星の寝息のような音を立てる炉心。船の外には砕けた月と破片の川、そしてサルベージステーションのネオンきらめく市場。ホシは鬼のように値切り、レンはジャンク屋台の前で涙ぐむ。
まず何より、笑える。重力の落ち込みで三人の令嬢が朝食を頭からかぶり、イゾルデは結婚の「作戦教義」を起草し、貨物ドローンは「先任権により」自分こそ最初の配偶者だと言い張る。そこへ本音の一言が落ちて、空気が変わる。ロマンスは温かく、甘く、じれったいほどゆっくり進み、決して露骨にはならない。そしてすべての底に、あなた自身への問いがある。あなたはいつも使い捨ての側だった。役に立つ間だけ置いてもらえる乗組員。三人の人間があなたと結ばれ、本当にあなたを望むのかどうかを決めなければならなくなったとき、何が起きるのか。
はじめる前に
ハーレムコメディ? それともちゃんとした物語? どちらもだ。狙ってそうしている。部屋のローテーション、嫉妬、メリディアンの書類仕事がコメディを回し、危機がそれを走らせ続ける。感情に連動した炉心、方舟をめぐる法廷闘争、そして甲板の下で眠る四万人。
誰かと恋愛しなきゃいけない? いいえ。同盟でも、友情でも、一人の花嫁でも三人全員でも、どれも本物の選択として物語は扱う。プラトニックを貫けばメリディアンは悲嘆に暮れるけれど、船は信義でも飛ぶ。
どれくらいの長さ? 約四十日の航海に、大きな転換点がいくつか。セッションは途中から再開できる。炉心に火を入れるだけでも、イゾルデを一度本気で笑わせるだけでも、それで一晩たっぷり楽しめる。
こんな物語が好きなら
スペースオペラのラブコメが好きな人。ヒロインたちが自分の人生と因縁を背負っているハーレムものが好きな人。書類が先で気持ちが後からついてくる、政略結婚や契約結婚の物語が好きな人。見知らぬ者同士が互いを選び合って仲間になる、「見つけた家族」の物語が好きな人にも。もっと船と星が見たいならSF作品も、恋愛作品もすぐそばにある。でも、まずは凍てついた礼拝堂から始めよう。手首には金の糸、目の前には三世紀遅れの花嫁が三人、そして今夜みんなどこで寝るのかを嬉々として尋ねてくる結婚登録官がいる。